火曜の夜、元テロリスト3人がミシガン大学のキャンパスで講演をした。


会場のホールはいつになく厳重な警備体制が敷かれていて、開始2時間前には警察犬を連れた警察官が爆発物を探していた。このホールにはこれまで、ポーランドの元大統領やBPの現役社長が講演に来たが、こんな警備を見たことはない。会場は満席。多くの人がテロリストの生の声を聞きたがっていることが見て取れた。FoxニュースやMSNBCなど約6社のメディアも取材に訪れた。


残念ながら講演内容は期待したほどではなかった。元テロリストたちは改心して今は親米になり、CIAの調査に協力しているという。彼らがテロリストとしてどんな教育や訓練を受け、実際どんな活動をしたのか、なぜ考えを変えたのかを聞きたかったのだが核心部分が語られることはなかった。


講演者の1人は7歳の時に勧誘されてイスラム過激派に加わり、自爆テロをしろと教えられてきたという。「ユダヤ人を殺せ」と言われ続けてきたが、ある日キリスト教徒と出会ったことで考えを改めたそうだ。イスラム教徒は「改宗したら殺される」(彼らの弁)のに簡単に考えを変えた理由が説明不足だった。私から見れば彼らは「イスラム教過激派からキリスト教保守主義」に鞍替えしただけのように思える。


講演の主催は保守系の学生団体Young Americans for Freedom(YAF)。私はキャンパス内を歩いている時、この講演のチラシをYAFのメンバーからもらい、行ってみようという気になった。私が立ち話をしたのは礼儀正しい普通の学生さんで、保守的な印象は受けなかった。


この日、一番面白かったのはリベラル系学生の抗議行動である。彼らは黄色い服を身につけ、会場入り口でビラを配っていた。「講演の途中で静かに席を立って抗議の意を示そう」と書いてある。中にスカーフを被ったイスラム系とおぼしき女子学生がいたので「YAFの何がいけないのか」尋ねてみた。彼女いわく「YAFはイスラム教徒を皆、テロリスト呼ばわりしている。それは間違いだ」とのこと。イスラム教徒から聞かされると説得力がある。


講演開始から40分後に、黄色い服の人々が一斉に立ち上がり会場から出て行った。その数200人以上で目立っため、メディアも一斉に彼らの後を追い始めた。数社が退席した学生たち数人にインタビューしていたのを見て、上手い抗議行動だなと感じた。


その後、別の会場で行われた抗議集会も見に行ってみた。学生団体らしく青臭い議論に終始してはいたが、若者が大きな声でモノを言う気概があるのはとても良いことだ。約10年前、私が学生だった頃も、保守的な社会現象に失望することはよくあった。当時私は具体的に何をしたらいいのか分からなかったので、無力感を覚えるばかりだったから、アメリカの大学生を見ていると、うらやましい気がする。