The Fog Of War: Lessons From The Life Of Robert S. Mcnamara作者: James G. Blight,janet M. Lang出版社/メーカー: Rowman & Littlefield Pub Inc発売日: 2005/05/28メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る

残念ながら映画は見逃してしまったのだけれど、テレビ番組で部分的にマクナマラのインタビューを見て、その内容に驚き本を読んでみることにした。

映画を見た方はご存知の通り、ケネディ大統領とジョンソン大統領の下で国防長官を務めたロバート・S・マクナマラへのインタビューを元にしたドキュメンタリーだ。特にベトナム戦争キューバ危機、それに太平洋戦争について語っている。

私が衝撃を受けたのは、東京大空襲や原爆投下について率直に反省の弁を述べている部分だ。「・・・もしも太平洋戦争で米国が負けていたなら、自分とその上司は間違いなく、60以上の日本の都市を爆撃し、主に女性と子供と老人をおよそ100万人殺したかどで、『人道に対する罪』で戦争犯罪人として裁かれるべきだっただろう」---。テレビ番組のヒストリーチャンネルで見て、私が耳を疑ったこのコメント部分は、書籍 "Fog of War" では序章の8Pで早々に紹介されている。よく言ってくれた、と思った。

太平洋戦争に関する記述は第4章に詳しい。特に印象に残るのは米軍機による空襲被害者の回想録の部分だ。家族を皆殺しにされた人、死体の山を横目に見ながら逃げた人、小さな子供と一緒に逃げていたら目の前に爆弾が落ちて子供が目の前で焼け死んでしまったのを40年も忘れられない人。東京大空襲では一晩で8万人以上が死に、4万人以上が負傷したという数字も出ている。多くの日本人にとっては周知の事実だが、これを英語で伝える本が出版されていることに、語弊があるが溜飲が下がる思いだ。

私は20代の始めまで、若者にありがちな脊髄反射的なリベラルだった。大学時代に日本とドイツの戦争責任についてゼミで少し勉強し「とにかく日本はダメな国だ」と思うようになった。日本はドイツのようににアジア諸国にきちんと謝罪していないし、ナチス的なものを違憲にする憲法もないし、天皇は戦争責任を取っていないし、政治家は失言を続けるし。それもこれも、日本は外圧がきっかけで鎖国を解いたから根っからの無責任体質なのだ。夏目漱石も言っている通り「内発的な開化」をしていないからダメなんだ。もう一度近代革命からやり直さなければいけない---。

今思い返すと恥ずかしいけれど、当時は本気でそう考えていた。学生がヘルメットを被っていた時代に生まれていたら、間違いなく人生を誤っていただろう。大人になって少しものが分かってくると、今度はアメリカに対して腹が立ってきた。戦後の日本を民主化してくれたのはありがたいけれど、都市を無差別に爆撃する必要はなかっただろう。ドイツじゃなくて日本に原爆を落としたのは人種差別以外の何ものでもない。これが人道に対する罪でなくて何だというのか。

苛立ちは、アメリカ人のあっけらかんとした無知ぶりを見るたびにつのった。東京に住んでいた時、アメリカ人の友達が「広島に行って原爆資料館を見た。アメリカ人であることが申し訳なくなった。でも、こんなひどいことが起きていたなんて全然知らなかった」と言うのに驚いた。彼女は高学歴リベラル家庭で育ち「ベトナム戦争のことを学校で教えないのはおかしい」と学校に抗議するような両親を持つ。こういう人でさえ、原爆の被害について何も知らないなんて。

去年の秋、オハイオ州にある空軍博物館を見に行ったら、長崎に原爆を落としたあのB29も展示してあった。機体にはキノコ雲のイラストがコミカルな感じに描かれていて、そこには「Nagasaki」の文字が。これをバックに楽しげに写真を撮るインド系の一家を見ていたら脱力感を覚えた。ここまで無邪気にふるまうことが、勝者には許されるのか。

この種の「やってられない」感覚を持つ人には"Fog of War"の第4章だけでも、拾い読みすることをお勧めします。写真や表も多く、文章はだいたい20Pくらい。