The Two-Income Trap: Why Middle-Class Mothers and Fathers Are Going Broke作者: Elizabeth Warren,Amelia Warren Tyagi出版社/メーカー: Basic Books発売日: 2003/09/01メディア: ハードカバー クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る9日から文献調査を始めたので、仕事をしたのは今日でちょうど2週間分。

本10冊・論文13本を読んで4,5人と話して感じているのは、アメリカの働く女性が置かれた状況が決してバラ色ではないということだ。特に中間層は暗い。

その最たるものがこの本『The Two-Income Trap』に描かれている。3年前に発行された本で、アマゾンには読者の書評が出ているしテレビでも取り上げられたようだ。「アメリカにも問題は多い」と主張するR教授に勧められて読んだらとても面白かった。

筆者のElizabeth Warrenさんはハーバード大ロースクールの教授。米国の中流家庭で自己破産が激増しており、特に女性の破産が増えていることに着目し、全米にある7つの大学の教授たちと共同で行った実態調査を基にして書かれている。まず、子供のいる家庭の7世帯に1世帯が破産している(P6)という事実に驚く。「どうせ無駄遣いしているんじゃないか」という、すぐに思いつく批判に対して、インフレ調整後の衣食住費を20年単位で比較しながら反論していく(P20 〜)。女性労働力率が上がり、共働き家庭が増えて世帯収入が上がったはずなのに、中間層の生活はちっとも楽になっていない。

一番問題なのは住宅ローンだそうだ。子供の教育を心配する親は、良い公立学校のある学区を選んで家を買う。それが住宅価格の高騰につながる(P24)。1980年代に行われた住宅ローンの規制緩和が拍車をかけ、中間層の代名詞である警察官は1人の稼ぎでは大都市圏に家を買えなくなってしまったという(P31)。

本の面白さは、Warren教授の個人的な経験が印象的なエピソードとして盛り込まれているところにある。4人兄弟の末っ子である彼女が高校生の時、父親が心臓発作を起こす。無理がきかない体になった父親に代わり母親が働きに出る(P61)。大学の学費を払うため、両親は家を売ってアパートに引っ越す・・・さらっと書いてあるが泣ける部分だ。

当時、大統領夫人だったヒラリー・クリントンやシティ・バンクの役員とWarren教授の間で交わされた会話を再現している部分(P123〜138)は深く取材した雑誌の記事を読んでいるようで面白い。個人向けローンが儲かるからとどんどん貸し込む銀行と、そういう業界から財政援助を受けている政治家の関係が事実として淡々と書かれている。

2人の筆者は共にキャリアで成功したワーキングマザーだ。個人的な好みからすれば、女性に家に留まれとは言いたくない、と書いている。それでも中間層の陥っている困難を目の当たりにして「専業主婦の母親の価値を見直せ」と言わざるをえないと書くところ(P67)はとてもフェアだと思ったし、この2週間に読んだものの中では一番、感銘を受けた。