せっかくなので東京で読む機会のない媒体をと思い、"The Chronicle of Higher Education" という週刊の新聞を購読している。研究者や大学職員向けの情報を提供する業界紙だ。

これまで大学というと講義を受ける場所という感じで、中学校や高校の延長をイメージしていた。こちらに来て分かったのは「教室で先生の話を聞く」のはアメリカの大学の事業の一部にすぎないということ。ランキング上位の有名校になるほど、研究に力を入れている。大学について言及する際は「research university」か「teaching college」かという分け方をすることが多い。

研究者の多くは講義を負担と考えていて「teaching loadが多い大学では働きたくない」と言う。学内でも地位の高い(=高給取りの)教授ほど、受け持ちの講義数は少ない。平たく言えばResearcher(研究者)の方がTeacher(教師)より偉いとされていて、これにはちょっと驚いた。大学教授=先生ではないのだ。研究者は権威のある学術誌に何本論文が掲載されたかを競い合い、たとえ性格には問題があってもPublication(掲載論文)数が多ければ年収は2000〜3000万円に上ることがある。

こんな具合に同じ大学とはいえ、日本とはちょっと違う産業に見える。前述の専門紙、"The Chronicle of Higher Education"は組織運営やリーダーシップに関する話題が多く、アメリカの大学産業に携わる人向けのビジネス誌のような感じだ。最新号には、オハイオ大学のコンピュータから個人情報が流出した事件、学生が定員割れしてしまい、経営難に陥って身売りを検討中のシエラ・ネバダ・カレッジの話や、かつて人種差別で悪名高かったミシシッピ大学の評判を回復させつつある総長の人物記事が載っていた。

中でも面白かったのは、Shailaja Neelakantanさんという人が書いていた、インドに新しく出来たビジネススクール、インディアン・スクール・オブ・ビジネス(ISB)の話題(写真)。ここはインド政府から認定を受けた正式な大学ではなく、卒業しても修士号は取れない。また授業料は国内のトップ校の4倍もするにも関わらず、入学希望者が急増している。数年前まで、インドでGMATを受けた人は大抵ハーバードのMBAに出願していたが、今年はほとんどがISBに出願しているという。昨年の卒業生で最も高給のオファーをもらった人は20万ドルだったそうで、学生が魅力を感じるのもよく分かる。

人気の理由は海外有名校(米ペンシルバニア大学、米ノースウエスタン大学、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスなど)から客員教授を招いて講義をしてもらっていること。インド経済は急速に成長しており、企業経営に関する教育のニーズが高まっているが、自国の研究者では数が足りない。一方、海外から専任で教授を招聘するには資金が足りない。こうした状況で、短期の客員教授でまかなうという戦略は理にかなっている。米英の有名校教授も成長市場として注目されるインドの若者に教えることで刺激を受けられることを喜んでいるという。ISBの創設者は元マッキンゼーコンサルタント。新しいビジネスとして、とても面白い試みだなと思った。