Unaccustomed Earth作者: Jhumpa Lahiri出版社/メーカー: Knopf発売日: 2008/04/01メディア: ハードカバー クリック: 7回この商品を含むブログ (6件) を見る


「停電の夜に」、「その名にちなんで」などの著者の最新作。


これまでと同様、インド系アメリカ人の二世とその家族・友人との関係を描いている。身近な人の死や性、不倫なども扱っているのがこれまでと少し違うかもしれない。簡潔な英語で書かれているので読みやすかった。


人気があり、よく売れて評価の高い作家なのだが、私が気になったのはちょっと変な部分で、登場人物の学歴に関するところだ。この短編集「だれそれは何々大学(大学院)の何学部を出た・・・」という記述がやたらと多い。


例えば最初の作品に出てくる父親はインドからの移民一世で、プリンストンPh.D.を持っている。しかも理系。財産もコネもない途上国出身者にとって、この学歴はアメリカ社会で「食うに困らない」ことを示す水戸黄門の印籠みたいなものである。一方、娘は「アイビーリーグの入試にすべて落ちて」(という風に実際、書いてある)ノースイースタン大学へ。MBAが有名なノースウエスタン大学ではないので念のため。


その他にもニューヨーク大学の大学院に通う30代女性とか(彼女のことをコロンビアの学生と勘違いする人が出てきたりする)、ハーバードかMITで研究者をしている親のもとで育った息子がペンシルバニア大学に行ったとか。この短編集の主要な登場人物については、みな、最終学歴が学校名こみで書かれている。日本の小説だと、東大法学部みたいに「頭のよさ」をシンボリックに表す時は別として、大学名をここまではっきり書くことは少ないように思う。たとえば『ノルウェイの森』のワタナベくんは早稲田で直子は津田塾かな…と推測はできるが、はっきりそれとは書いていない。


ラヒリがこんなにあからさまに大学名を記述するのは、移民がアメリカ社会で生き抜く上で高等教育が不可欠だからだ。「その名にちなんで」の主人公は、親から理系に進むよう、強く勧められる。つぶしがきくからだ。文系ならせめて経済学を。他の学部にいっても食べていかれない、というようなことがはっきり書いてある。この短編集にもしっかりした姉と放蕩者の弟が出てくる話がある。弟はコーネル大学の理系学部に入学するが、やる気をなくし、映像関係の学部の講義ばかりのぞいている。インド系移民一世の父親は「フランス映画なんか見るために天文学的な学費を払っているわけじゃない!」と激怒する。


こんなことを書いている著者自身はルネッサンス研究でPh.D.を取っているのだが、やはり親から「そんなんじゃ食べていけないぞ」とお説教されたのだろうか。