夜7時30分からポーランドの元大統領・アレクサンドル・クワシニエフスキ(Aleksander Kwasniewski)氏の講演を聞いた。

彼が大統領だった1995年から2005年までの間に、ポーランドNATO北大西洋条約機構)やEU欧州連合)に加盟した。9.11テロの後には中東欧諸国の政治リーダーとの会合を持ち、国際テロに対抗するための協力体制を作ろうとした。親米外交でも知られ、対イラク戦争時には自国の軍隊を派遣した。つまりクワシニエフスキ大統領のリーダーシップで、ポーランドは政治経済的に西欧諸国の仲間入りをしたことになる。

国内政治では現実的な対応を取った。「革命というと、既存のルールを壊してゼロから新しいルールを作るイメージがありますが、ポーランドで私がやったのは会議と対話の連続。そして書類の山を処理すること。時間がかかり、退屈でドラマチックさに欠ける。スピルバーグでさえ、この様子を面白く描くのは難しいでしょう」。

意見の違う人々とも対話を続けたため、弱腰と見られることもあったそうだ。「私はよく"Mr. Compromise(妥協)"とか"Mr. Dialogue(対話)"と陰口を言われましたが、むしろ誇りに思っています。妥協は弱さの表れではなく他人との対話の可能性を開いておくということ。建設的な手段だと考えています」との主張には説得力を感じた。

本人を見るまでは旧東欧の政治家と聞いてお硬いイメージを持っていたが、実際はジョークを連発する明るい人だった。例えば自分が大統領職を離れる直前の支持率が66%に達していたことに触れ「全ての大統領が高支持率のまま職を離れられるといいのですが」と言ってのけた。ブッシュ大統領の支持率が低いことを知る聴衆の笑いを誘うためだ。また、講演の冒頭では週末にフットボールの試合を観戦したと話し「私はやっぱりサッカーの方が好きだと分かりました」と続けた。熱狂的なフットボールファンの多いミシガン大学の関係者を意識してのコメントで、もちろんここでも皆が笑った。

ポーランドの抱える課題のひとつとして彼が挙げたのは投票率の低さ。40%程度とのことで「このままでは、ある種の政治家に独裁の口実を与えてしまう。『ほら、人々は政治に関心がない。俺達にまかせればいいんだ』といった具合に」と懸念を示した。最後に11月7日にせまったアメリカの中間選挙について言及し「アメリカ人がどんな政治的決断をするかは、あなた方が考えている以上に世界に影響を与えます。どうか、関心を持ってください」としめくくった。

カラフルなパワーポイントも講演内容を記した配布資料もなし。ごく簡単な英語で話しながら聴衆を惹きつけるのは、さすが元大統領と感心した。