米大統領選挙の結果が判明してから、オバマ支持者の喜びを伝える報道を見てきた。


実際のところどんな感じか知りたくて、友人・知人にメールを送ってみた。私の知り合いは皆、民主党支持者だから、喜ぶのは当然だった。予想外だったのは、皆が熱狂していたことだ。軽い感じで送ったメールに、すぐにずっしり重い返事がきた。


「私も彼氏も、ものすごく喜んでいるわ!」と言うMは心理学を専攻する大学院生。ペンシルバニア州中央部にある、保守的な街の出身だ。彼女は"小浜市"がオバマを応援していたことまで知っていて「いい話ね」と喜ぶ。


「やったー!」と即レスしてくれたのは、ミシガン時代に一番仲良くしていた経済学部博士課程のN。ミシガンで同じアパートの隣の部屋に住んでいたAは「まさに私達が彼を大統領にしたのよ!」と興奮していた。NもAもFacebook上で投票に行ったことを公言していた。


大人も喜んでいる。
大学教授夫妻のCさんは、オバマのTシャツを着た孫の写真を送ってくれた。「Obama's Child」とのこと。


労働経済学者のIは「勝ち方がよかった」と振り返る。インターネットを通じて支持者が草の根で広がり、Aのような若者が積極的に参加した。


・・・ここまで全て、「白人」の意見である。彼らがオバマの人種を全く気にしていないことが伝わってきた。


いわゆる「黒人」はより深いレベルで結果を受け止めていた。ミシガン時代に同じ職場にいたPはカリブ海の島国出身。アフリカ大陸出身ではないが、肌の色は黒である。彼女いわく、オバマの勝利はアメリカに住む黒人にとって「安堵」だったそうだ。


正直いって、この国がこれほど重要な職に黒人を選ぶとは思っていなかった。そういう尊敬の念を黒人に持てるとは期待していなかった。オバマが勝ったことで、これまで黒人が受けてきた、身体的暴力や精神的暴力、自分は劣った人間なんだと常に思わされてきた重荷から解放された。この国で真の民主主義が達成されたと思う。幸い、若い人たちは前向きでオープンな考え方をしている。オバマは私の子ども、孫、ひ孫の世代のために良い国を作ってくれると思う。

Pが書いてくれた長いメールを読んで、差別がいかに人間を損なうか改めて知って言葉がなかった。ほんの半世紀前まで、黒人は公然とリンチされたり殺されていたのだ。選挙結果を知った黒人有権者が見せた涙の背景にはそういう歴史がある。


2007年春、Pを含めた5人でオフィスの近くで昼食をともにした。当時まだ、オバマはようやく顔が知られてきた程度だった。「どっちを支持する?」と食事をしながら聞いてみた。皆、有色人種の女性だったから、ヒラリーかオバマか、もしくはライスなのか気になったのだ。


1人がこんな風に言った。


「この国は黒人を大統領に選ぶほど進歩的じゃない」


史上初の黒人大統領? とはしゃぐメディアとは裏腹に、40代後半の黒人女性は冷静だった。そこからは、彼女がこれまで差別と、深い悔しさを感じた。2年半も前の話だが、大統領選挙の報道を見るたびに、この言葉を思い出した。


色々な問題は抱えているが、アメリカが世界から人を惹きつける理由があらためて分かる。Aのような若い学生は、自分達の力で大統領を生み出したことを一生忘れないだろう。また、そういうことが可能だという実感は、これからも若い社会や政治への参加を促すだろう。


「あなたの国の首相はどう?」とAから聞かれたが返事ができずにいる。悪くないと思うけれど「私が彼を首相にした」とは残念ながら言えない。