パトリシアが暗に批判しているのは、上司も同僚も白人ばかりという実態だ。


この話題、短期滞在者の私には「非常に興味深い」ですむ話だが、CEWで長く働くスタッフはあまり触れたくないはず。ディレクターのキャロルを始めナンバー2のべスも他の常勤スタッフも多くが白人女性。常勤スタッフに有色人種を増やせというパトリシアの主張は、白人女性の既得権益を脅かす。


女性スタッフ同士で「男性優位社会」を批判しているだけなら仲良くやれるが、人種問題に深入りすると精神的な対立が起きるかもしれない。幸いパトリシアの勇気ある提案は皆に受け入れられた。昼食前に各グループが議論の結果を発表し(写真)、全員が3票ずつ持って、重要だと思う提案に投票した。センター内の人種問題は一番関心を集めた。


私が知る限り、公式の会議の場でここまで本音が出るのは珍しい。たいていの場合、出席者同士、気心が知れているから相手が嫌がる話題には触れない。心地よい人間関係に傷がつくことを恐れず、本質的な問題を指摘したパトリシアは偉い。耳に心地いいはずはない話題でも全く嫌な顔をせず「オープンに議論してくれてありがとう」と真剣に聞いていたキャロルのリーダーシップにも感心した。


ミシガン大学のどの学部・組織も表向きは「ダイバーシティが大事」と言っている。だが友人・知人から内部事情を聞くと理想と現実には乖離がある。特にアジア系への配慮はビジネススクールを除けば皆無と言っていい。


日本の組織では人種は問題にならないが、性差が問題になりつつある。今はまだ「優秀な女性を採用しよう」という初期段階だから何ら問題はない。誰の既得権益も、明示的には脅かさないからだ。でも、本当に大変なのは女性が男性とポストを争うまで昇進を重ねた時である。そういう時「彼女の方が優秀だから、彼女に任せよう」と言えるか。ダイバーシティ推進の真価が問われるのはこういう時だろう。