MITのビジネススクールのLotte Baylin教授がワークライフバランスの課題について書いた本。


アメリカの共働きカップルについて調査報告書をまとめる際、彼女が書いた別の本を引用させていただいたので、お送りしたところ「こっちの本もあなたの関心に合うかもしれません」と返事を下さった。


1カ月ほど前に読み終えたのだが、この本はもっと早く、できれば渡米前に読んでおくべきだった。「アメリカ企業社会の問題点」として描かれている事が、どれもこれも日本に当てはまることばかりなのだ。


例えば、制度だけでなく管理職の意識改革の必要性を訴えた部分(p.23)。フレックスタイムの制度はあるが、部下がそれを使うと、フォローのため、自分の負担が増えると思いこんでいる女性管理職が登場する。部下は彼女の意向を汲んで、フレックスを使おうとしない・・・。上司の顔色をうかがって、使える制度も使わない日本人会社員と同じである。


ちょっとした打ち合わせをしようとしたり、仕事の進捗を尋ねたときに備えて、部下がいつも目の前にいることを当たり前と思っている上司たち(p.69)。やる気のある部下は部署や会社のために個人生活を犠牲にするのを厭わないという思いこみ(p.73)。


これらはワークライフバランスを推進するにあたり「日本企業の問題点」としてよく挙げられることと全く同じだ。


経営学者が書いた本であるためか、問題提起で終わっていないところが良い。ある企業の管理職が、3カ月限定で「担当の仕事さえこなせれば、どんな出勤形態にしてもよい」と宣言したところ、サボりが30%減り、顧客満足度も上がったそうだ(p.140)。ベストバイが成果主義に基づく職場環境を作ったところ、最初の1カ月で離職率が14%から0%に下がったという(p.142)。こんな具合にワークライフバランスとビジネス上の成果がどう結びつくか示すのは大事である。


ちなみに著者はMITのWork Place Centerという研究所の共同代表も務めている。この研究所を財政的に支えているのは、Alfred P. Sloan財団で、仕事と私生活について研究する人々の多くがここから資金を得ている。財団はかつてGMのCEOを務めたAlfred Pritchard Sloan氏が設立した。アメリカは先進国の中で、公的育児支援が最も貧弱な国だが、「公」が手薄な分をプライベートマネーが補う構図になっているのが面白い。