デリカシーのない親族である。


出産以来感じてきたが、ずっと書くのをためらっていた。夫ともども、いいかげん腹に据えかねたのと、同じような思いをしている人が少なくないことを知ったので、書くことにする。


ワークライフバランスという点から見れば、私の勤務先は完璧である。職場の上司や同僚はこちらの状況を慮って親切な言葉をかけてくれるし、人事の担当者は産休にあたり、使える制度についてものすごく丁寧に教えてくれた。夫の勤務先の環境も大変良い。生後数ヶ月の子どもを連れて行った時は育児経験を持つ教授たちが色々なアドバイスをしてくれたし、直属の上司は出産祝に育児百科をプレゼントしてくれた。現在、夫は家事の7割、育児のほぼ半分をやってくれるので、サポート体制は120点である。


思わぬ落とし穴は親族にあった。彼ら(というより、彼女ら)は、私たちがどのように育児をしているのか、知りもせず、また尋ねもせずに、口出ししてくる。曰く「おっぱいの方が(ミルクより)いいのよ」、「いつ(仕事に)復帰するの」・・・。正直に復帰時期を言おうものなら、非難がましくあれこれ言われる。


余計なお世話である。


なるべく母乳で育てたいと思い、生まれた当日から夫と3人で悪戦苦闘した。最初は子どもがうまく口を開けられなかったが、入院先の助産師さんたちの手厚い指導もあり、数週間で母乳が出るようになった。と思ったら、乳腺炎で高熱を出した。夫は海外出張をキャンセルして看病してくれた。ようやく完全母乳が軌道に乗ったのは生後2カ月頃。安心していたら、次は白斑で胸に激痛を覚えて病院に駆け込んだ。母乳のために、夫は忙しい研究の合間をぬって、低脂肪な野菜中心の料理を毎日作っている。


そんな私たちの苦労をねぎらうこともせず、二言目にはおっぱいがどうのこうのと、支援どころか嫌がらせのようなことを言ってくる親族が、残念ながらいるのだった。


仕事への復帰にしても、同じことが言える。かわいい子どもを預けて働きに出なくてはいけないことを、一番残念に思っているのは親である私と夫である。そもそも働かずに生活できるなら、仕事は趣味程度にして、毎日、子どもと遊んで暮らしていたい。あなたたちのように、夫が働いている間、ショッピングやランチに興じたいものである。けれど教育費や老後資金が不安な私達の世代は、共働きをしなければやっていけないのだ。


こちらは家計から月額7万円も、おそらくはもらえるあてもない、年金に取られている。あなたたちが今もらっている、その年金を払うために。年金もらい逃げ世代に仕事や育児についてとやかく言われるほど心外なことはない。


少子化の原因はおじさんにあると、ずっと思っていた。長時間労働が常態化している日本の企業社会が悪いと思っていた。しかし、最近、はっきり分かったのは、団塊世代以上の主婦の一部にいる、このような人々こそが、少子化の元凶ということだ。「そんなに早く復帰するの」なんて嫁に言うなら、あなたの年金を返上してくださいな。そのお金を育児支援にまわしてくれれば、すぐに2人でも3人でも産める。


全く手伝いもしないくせに、結婚の形態やら育児のやり方にうるさく口をはさむ親族がいる一方で、見ず知らずの人の優しさに救われることもある。子連れでマンションのエスカレーターに乗っていると「かわいいわね」とか「今、いくつ?」と声をかけてくれるのは、決まって子育て経験のある老婦人である。「育児は大変さと嬉しさが混じってるから、がんばってね」と声をかけていただくと、本当にありがたいなと思う。つい先日も、道端ですれ違った老婦人が子どもの手を取ってくれ「私達から見ると神様みたいですね」なんて言ってくださった。親族の冷たさが身にしみていたので、思わず涙が出そうになった。バスや地下鉄で席を譲ってくれる人の心遣いも、いつもありがたい。


男女共同参画とか仕事と育児の両立支援を進めるなら、政策担当者が取り組むべきは、保守的な親族の啓蒙だ。彼・彼女らは、まともなビジネスパーソンなら決して言わないような、嫌がらせ発言で子持ちの夫婦を苦しめる。同じことが企業内で言われたら、セクハラ確定なのに、親だからとか祖父母だからという理由で見逃されているのはおかしい。


はっきり言おう。彼女らの行為はドメスティック・ヴァイオレンス(DV)である。かつて、配偶者への暴力が、家庭内のいざこざとして見逃されていたのと同様、姑や親族の不用意な発言は、身内だからというだけの理由で野放しになっている。大企業や都市部に限っていえば、ビジネスマンはかなり進歩的になったので、職場におけるいかにもな差別発言は減った。今、変えるべきは、子どもや孫、嫁相手なら何を言ってもよいと思っている人権意識の欠けたおじさん・おばさんたちである。

この記事は堪忍袋の切れた夫と二人で書きました。