夫婦の2組に1組が離婚するアメリカで、離婚そのものは本書のタイトルにある通り、「よくあること(Happens Every Day)」である。

しかし、乳幼児の子ども2人と主婦の妻を捨てて、出て行く夫というのは「よくいる」のだろうか。さらに、別れる原因が同僚との恋愛沙汰で、その同僚の採用面接を自分が担当していた…というのも「よくあること」なのだろうか。子どもはまだ、1歳半と3歳で、浮気相手の女性は妻とも友人関係にある。まるで出来の悪い昼ドラのようだが、本当の話なのだ。


舞台はオハイオ州にある小さな小さな大学町。近所の人は皆、顔見知りである。主人公は、NY育ちの新進女優だったが、幼馴染と再会して結婚。夫の仕事の都合で、女優としてのキャリアを捨てて引っ越してくる。ちなみに夫はハーバードで詩の博士号を取得した研究者である。


ほどなく、妻も夫と同じ大学で演技のコースで教鞭をとり始め、夫と同じ業界で働くことになる。美しい一軒家を買い、表紙写真にあるようなウィリアム・モリス柄の壁紙を貼って家を居心地良くしつらえて1年もたたないうちに、夫は妻に離婚を切り出すのだ。「もうこんな生活は続けられない」と泣きながら。


物語の大半は、夫の気持ちを取り戻そうとする妻の絶望的な努力の描写で占められている。青天の霹靂でショックを受けても、日常生活は続いていく。家事も育児も教員としての仕事も、毎日こなさなくてはならない。このあたりの描写がリアルで面白い。


ストーリーの骨子は知ってて読み始めたので、最初は「何でこんな男と結婚したんだろう」と不思議だった。離婚歴があり、前の結婚でも子どもがいて、別れた理由は彼の浮気である。ようするに、そういう男なのだ。タイトルの由来が明らかになるくだりは、なるほど、そうくるかと思わされ、これがまたとない復讐の書になっていることがわかる。


離婚話もさることながら、この本にはもうひとつ面白い点がある。ニューヨーカーにとり、アメリカの田舎町がどう映るか、失礼なくらいはっきりと書かれていることだ。


著者はオハイオに引っ越す際「子どもがかわいそう」と思ったそうだ。田舎だから「家なんて2ドルくらいで買えそう」とか、ルイジアナと聞けば「蛇がたくさんいて、新鮮な野菜なんて手に入らない(熱帯の後進国のイメージなのだろう)」、そこかしこに、田舎蔑視発言が見られる。アマゾンで酷評している人たちは、皆、このあたりにひっかかっているようで、著者の実家がセントラルパークをのぞむ高級アパートであることや、メイン州に別荘があること、オハイオを馬鹿にしているんじゃないか、といった点に怒っている。まあ、嫉妬も混じっているのだろう。


本書を知ったのは、NPRの本のコーナーで、ある女性教授が「面白くて一気に読んでしまい、キッチンのテーブルに置いておいたら、夜、出張から戻った夫が徹夜で読んでしまっていた」と話していた。確かに、アメリカの大学町で暮らす研究者とその家族にとっては、よくあるが、他人事と思えない話なのだろう。ちなみに、夫の所属していた大学は実名で記されているので、教職員名簿をウェブで見てみたが、該当者とおぼしき人はすでにいなくなっていた。ある書評によれば、彼はすでに解雇されていたようだが、当然だろうなあ。