衆院選挙とのりピー事件のほかに、最近、気になったのはこのニュースだ。


日本板硝子の英国人社長が家庭の事情を理由に辞任した。単身赴任生活と社長業の多忙さゆえ、家族との時間をほとんど持てなかったという。


夏期休暇中に英国に住む16歳の長男と会った際、
「このままでは見知らぬ他人のような関係のまま、
もうすぐ独立する息子と別れることになる」と感じ、

中略

「日本の古典的サラリーマンは会社第一で、家族は
二の次だが、私にはそれはできなかった」と語った。

毎日新聞 2009年8月27日 東京朝刊

これは、なかなかすごい。


論点はいくつかあるが、ひとつめは、ジェンダー規範をやぶっていること。
女性が家庭の事情で仕事を辞めるのは、よくある光景だが、男性が、しかも出世できる能力を持ち、現に仕事で成功している男性が辞めるのはとても珍しい。女性は家族をつくることで、男性は仕事で成功することで自己実現をもとめるべし、という伝統的なジェンダー規範に真っ向から反対しているかたちだ。


ふたつめは、幸せというか価値観というか、そういう話。
男女を問わず、家族と離れて暮らすのが寂しいのは当然だ。社長より父親であることを優先したのは、誰にでもできることではない。カッコいいことだと思う。


私自身、連れ合いと6年間離れて暮らした経験からいって、単身赴任はとても不健全だと思う。本人が望んで転職したとか、留学した(私の場合はこれだが)のなら、まあ仕方ないが、会社が勝手に「あそこへ行け」と命じて家族を離れ離れにするのは、とんでもない人権侵害だ。高い報酬をもらっている経営者ならまだしも、一般社員やふつうの管理職でそこまでさせるのは、おかしい。そういう会社は社会貢献とかCSRとか言う資格はない。


みっつめは、勝者は全てをもっていく、ということ。
仕事の成功か家庭の幸福か、ではなく、両方ゲットできる人はする。どちらも手にできない人が大半だけれど。これはなかなか厳しい話だ。


辞められるのはアウトサイドオプションがある(=英国で別の会社の経営者になれる)からでは・・・と思ったが、経済界から引退するんですね。要するにおカネの心配をしなくていいという、恵まれた状況であることがわかるのだ。


しかし、「16歳の息子」ともなれば、同居していても、“見知らぬ他人”ではないか? とか、そもそも妻が“見知らぬ他人”になっている日本のビジネスマンも多いのでは…と考えていくと、チェンバースさんの決断は、やはりすごいことだと思うのだった。