保守エリートが言葉を失った瞬間


本書の後半部には痛快なエピソードがある。保守層エリートが主張するような“理想の男性片働き家庭”は、同じ保守でも中間層以下には経済的に実現不可能。保守系著名人がホストを務めるラジオ番組に、彼のファンである中間層の父親が電話をかけてくる。この父親は料理をするし、2人の息子たちはクッキーを焼くという。固定的な性別役割分担が崩壊しつつある現実を聞かされて、保守系著名人はラジオ番組の中で呆然として言葉を失う様を見せる


要するに、変化を起こすのは思想ではなく経済だ。私も2006年に、本書にも登場するカンザス州の専業主夫会議を取材したが、そこに集まった主夫たちは口を揃えて「妻の方が自分より収入が多いから、自分が家庭に入った」と話してくれた。当時滞在していたミシガン州でインタビューした主夫は、普通に保守的な男性で「アメリカ人だって本当は従順な女が好きなのさ。でもそういう女がいないだけ(笑)」と本音を吐露してくれた。彼が家庭に入った理由も、妻の方が収入が多いためだった。