訳者の落合恵子さんの帯を見てつい手に取って、読んで、読み聞かせて買った本。


3歳か4歳くらいの子どもが遊んでいると、突然、近くに爆弾が落ちてきて、家はつぶれ家族はちりぢりに。子どもは逃げている間に、どこかの大人に手を引いてもらったり、抱っこして眠ったり、兵士に捕まって水汲みをさせられたりして、最後は難民キャンプと思しき場所にたどりつく。食事と着るものと寝る場所は見つかっても、親もきょうだいもいない日々。最後には…。


あとがきによると作者はベルギー人で、祖父母は第二次大戦中、レジスタンス活動をしていたためドイツ軍に連行され、4年間戻ってこなかったそうです。突然親を奪われた作者の母親は3人のきょうだいと一緒に、近所の人に育てられたのです。戦後、返ってきた祖母は娘のことが分からなかったそうで、どんな経験をしたか、想像がつきます。


ただこの本は、反ナチスものではありません。地名も時期も戦争の名前も、固有名詞は一切書かれておらず、絵からも推測がつきません。欧州でもアジアでもアフリカでもない、どこか。主人公も幼児であること以外、性別も顔もあまり分からない。


ここに、作者の意図を感じます。これがどこかは関係がない。訳者の言葉を借りれば「地球のどこかで、子ども時代をうばわれている子どもがいること」を伝えるために、あえて時間も場所も分からなくしたのだと思います。


徹底して子ども目線から描かれているので、繰り返し一緒に読みたい絵本です。私たちの子ども達が「かあさんはどこ?」と言わずにすむ世界をつくること、大人の責任は何よりもそこにあることを、あらためて強く感じました。