女性の経済・社会的地位が高いアメリカでも「頼む」ことにかけてはいまだに男女差が大きい。

Women Don't Ask: Negotiation and the Gender Divide

Women Don't Ask: Negotiation and the Gender Divide

人にものを頼むのが苦手であるがゆえに、女性は同程度の能力の男性と比べて多大なソンをしていて、金銭換算すると生涯で6800万円に上るという。


行動経済学の専門家であるカーネギー・メロン大学リンダ・バブコック教授は著書『Women don't ask』で、女性は男性と比べて人にものを頼んだり交渉するのが苦手であることを明らかにした。心理学や実験経済学のデータ、100人以上へのインタビューを元に、賃金交渉やクルマを買う際の価格交渉で女性がいかにソンをしているかが浮き彫りになる。


研究のきっかけは、バブコック教授が公共政策学部とMBAで学部長を務めていた際、寄せられた女子学生からの苦情だった。男子学生は講師の仕事を、女子学生は講師アシスタントの仕事をアサインされることが多かったのだ。アシスタントより講師の方が給与は良い。調べてみると、教授たちは「講師の仕事をやりたい」と自ら申し出てきた学生に男女の区別なく仕事をアサインしていたことが分かった。問題は「仕事をさせてくれ」と頼むかどうかにあったのだ。


カーネギーメロン大学修士号を取得した学生の初任給は、男性の方が女性より7.6%(4000ドル)高い。また、女性は7%しか給与について交渉していなかったが、男性は57%が交渉していた。そして交渉した人は平均7.4%(4053ドル)初任給が上がっていた。この男女賃金格差を38年間の生涯賃金に換算すると、男性は女性より361.171ドル多く稼ぐ。利率3%で運用すると60歳までに男性は568.834ドル(約6800万円)も多く手にすることになる(p.5)。同じ能力を持ちながらも男女間で経済格差が生まれる原因が見えてくる。


女性は男性に比べて同じ金額を得るために長時間働くこと、価格交渉の不快さを避けるためにクルマを購入する際、男性の倍も多く払いがちであることなどが明らかになる。交渉において女性が遠慮しがちな理由は、押しの強い女性は周囲から批判されたり、嫌われがちということがある。日本女性に比べると強気に見えるアメリカ女性が、今なお直面している課題が何なのかよく分かった。日本でも上級管理職の女性は同じような困難を感じているので、共感する部分が大きいと思う。