アメリカ南部のある街に住む共働きの夫婦に電話でインタビューをした。


夫婦ともに30代の管理職。子供が2人いる。インタビューの主目的は家事育児をどう分担しているかを尋ねることだった。家事も育児もだいたい半々に分けていて、家計負担もおよそ半々だという。夫は「結婚は責任を分担することだと思う」と話しており、それをきちんと実行していた。


本や論文で数字を見る限り、日本より20〜30年進んでいるアメリカといえど家事育児は女性の負担が大きい。だから私が話を聞いたカップルはアメリカ人の中でも先進的な人たちだと思う。


分担が平等であること以上に驚いたのは、2人が「政府が公的保育所を作る必要はない」と考えていたことだ。「子供を持たない人の税金を、子育てに使うのはおかしい」というのが理由である。これには本当にびっくりした。インタビューは夫婦別々に違う時間にしたので、どちらかの意見にもう片方が話を合わせたという感じではない。彼らが民間の育児サービスに支払ったのは乳児2人で年間約150万円。こんなにたくさん払っているのに政府のサポートが必要ないなんて・・・。


共働きといっても、ものすごく裕福というわけではない。妻は子供と一緒に過ごすためパートタイム勤務をしたがっているが、家計収入を減らしたくないのでフルタイムで働いているという。そういう普通の共働きカップルが「政府の援助はいらない」と言い切るのだ。


サンプル数が少ないので、これをもって「アメリカ人の主張」と一般化することはできないが、これまで話を聞いてきた他の2組のカップルも、カンザス・シティーで話を聞いた専業主夫たちも、口を揃えて「政府の育児支援に期待はしない」と言っていた。日本で少子化や育児について話をすれば、家計収入がかなり高い人でも公的育児支援の充実を訴える。何とも対照的な反応に本当に驚いた。


「それは政府の仕事じゃない」と言う人が、他人に対して不親切かというとそうではない。私のインタビュー目的は「日本の管理職専門職女性がキャリアと育児を両立するためのヒントを得るため」であり、彼らはそのために時間を割いてくれているからだ。見ず知らずの外国人にプライベートな質問をされて快く答えてくれるのは、親切以外の何ものでもない。"小さな政府"を志向する人が思わぬところにいるものだ。