独身上司と子持ち部下のやり取り。共に広告会社で働く有能な女性である。部下は4人の子供を産み、7年間専業主婦をした後、再就職。面接の際、この上司は「子供が理由で仕事に支障をきたすことは許さない」と明言する。
部下の夫は専業主夫として家事育児に専念している。父子関係は良好だが、子供が幼稚園の初日に「ママも一緒に来て欲しい」と言い出す。「明日の午前中、休んでいいか」と尋ねる女性部下に対し、上司はこんな風に答える。「みんなそれぞれやりたいことがある。私だって美容院に行きたいけれど、仕事が忙しいからこの数ヶ月我慢している。"母親"だけが特別扱いされるのはおかしい。だから休みは認めない」。結局、部下は休みを取ることをあきらめ、ウェブカメラを使って息子に"同行"する。
女性管理職も、ファミリーフレンドリーを阻むことがあるのだ。たしかに米企業に関する調査を読むと、子持ち女性への差別が意外に多い。私がインタビューした女性の中にも「決まった時間に帰宅する女性と、いつでも何でも頼める男性がいたら、私は迷わず後者を雇う」と言う人がいた。この発言者自身がワーキングマザーである。こんなことを表立って言えば「差別主義者」のレッテルを貼られる。だから公式な場では言わないが「24時間働ける」人材が優遇されるのは、日本もアメリカも同様なのだ。
別のシーンでは、同じ上司が部下に「飲みに行こう」としつこく誘う。以前、この部下がご機嫌取りのために上司をバーに誘い、男性客との"出会い"の機会を作ってやった。ふだん、寂しい独身生活を送る上司は、これに味をしめたのだ。毎日のように帰宅が遅くなるのに困った部下は、上司が二度と誘ってこないよう思い切った手段を取る。
同じことが日本企業では男性同士で起きている。部下を無理やり飲みに誘うのは最近ではパワハラと呼ばれるようになった。管理職の半分を女性が占めるアメリカでは、加害者は男女を問わない。政府の後押しもあり、日本企業には今後、女性管理職が増えるだろう。そろそろ"加害者は男性"というステレオタイプを捨てる必要がある。