One Night at the Call Center: A Novel作者: Chetan Bhagat出版社/メーカー: Ballantine Books発売日: 2007/05/01メディア: ペーパーバック クリック: 10回この商品を含むブログ (1件) を見る


インド・デリーのコールセンターで働く6人の男女を描いた小説。


都市で働く人共通の悩みに、インド特有の課題が織り込まれていて面白かった。主人公は20代後半の男性。ストーリーは、ある一晩に起きた人間模様と主人公と元彼女のデートシーン回想で構成されている。2人は同じ大学のキャンパスで出会って4年間つきあった末、数ヶ月前に別れたばかり。今も同じ職場で働いている。


その日は実に色々なことが起きる。元彼女が見合い結婚を発表。主人公はショックを受ける。別の女性スタッフはひょんなことから夫の浮気を知ってしまう。もう1人の女性スタッフはモデルになりたいという長年の夢が破れたばかり。退役軍人のおじさんスタッフは、息子とメールで喧嘩になってしまう。要するに誰もが私生活に失望している。この辺りは日本のドラマとほとんど変わらない。


仕事だって順調ではない。主人公はチームリーダーとして5人のメンバーをまとめているが、最近、管理職昇格に失敗した。米ボストンにある本社は、コールセンターの人員整理を計画中。さらに悪いことには上司が典型的な使えない奴なのだ。しかも出世のためには部下の仕事を横取りする。


インドの大学でMBAを取得したこの上司は、マネジメントオタクだ。リストラは"rightsizing"、コールセンターのスタッフたちは"resource"。何かあるとすぐに図を描きたがり、尊敬する人はマイケル・ポーター。早く米本社に移って出世コースに乗りたい・・・そればかり考えている俗物である。


かなり戯画化しているが、現場を見ず、部下の話を聞かず、自分の出世だけを考えている嫌な上司は万国共通だ。


小説のテーマのひとつは格差だ。一般のインド人と比べれば恵まれているとはいえ、コールセンターで働いても年収はせいぜい数十万円〜100万円。先進国の給与とは比べるべくもない。


やりきれなさが顕著なのは、主人公と元彼女の婚約者の対比。婚約者はマイクロソフトのシアトル本社で働くインド人。米ウィスコンシン大学で工学の修士号を取得し、今は未来の妻のためレクサス購入を計画中。主人公がいたたまれない気持ちになるのも理解できる。レクサスは彼の10年分の年収に匹敵するそうだ。


コールセンターに電話をしてくるアメリカの消費者の知的レベルが低いことも、インド人の不平等感に拍車をかける。ある客は感謝祭の食材が大きすぎたので、オーブンを解体してスペースを広げようと試みて失敗、電話をかけてきた。別の客は人種差別主義者で、酔っ払って電話をかけてきた上に暴言を吐く。不愉快な通話も含め、インド人スタッフは、一晩に1人200本もの電話を処理する。しかも、アメリカ時間に合わせ、勤務時間は夜10時半から朝6時半まで。


精神的に疲れる仕事だから、インド人スタッフは新人研修で"35=10の法則"というのを習う。35歳のアメリカ人は10歳のインド人と同程度の知的レベルである、という意味だ。アメリカ人は頭が悪いから、子供に話すように分かりやすく説明せよ---。


英語を操り、高等教育を受けた都市住民なのになぜ、自分たちより劣る人間の無礼な振る舞いに、丁寧に対応しなくてはならないのか。主人公のストレスはこれに尽きる。小説では、アメリカ人消費者がいかに頭が悪いか、インド人スタッフがいかに勤勉で知的かが舞台を変えて繰り返し語られる。作者は友人や親戚など多くのコールセンタースタッフに取材してこの小説を書いている。誇張はあるにせよ、一定の真実が含まれているだろう。


大変なことばかり起きるが最後は一気にハッピー・エンドに持っていくので、スカッとする。作者は香港の投資銀行で働くインド人男性だ。