台湾の社会学者が行ったフィリピンとインドネシア人メイドに関する調査。

Global Cinderellas: Migrant Domestics And Newly Rich Employers in Taiwan

Global Cinderellas: Migrant Domestics And Newly Rich Employers in Taiwan

私はこれまで出張で3回台湾を訪れたが、通訳の女性がフィリピン人の「メイドさん」を雇っていた。料理に掃除、子供の世話をしてくれるから、仕事で夜遅くなっても大丈夫だという。「便利でいいなあ」と思っていたが、この本で実態がよく分かった。


著者はフィリピン人・58人、インドネシア人・35人と彼女たちの雇用主にあたる台湾人51人(男性4人、女性47人)にインタビューを行った。移民労働者が家事サービスを提供すると何が起きるのか、各々の複雑な心情まで描き出している。


彼女たちが外国(台湾)で働く動機はお金のためだ。元銀行員や元教師など、本国では大卒ホワイトカラーだった人たちが失職して出稼ぎに来る例も多い。夫も仕事がないから子供は家に残して母親が海外で働くのだ。家族が離ればなれになる寂しさ、異国で働き差別を受ける辛さ。台湾に来るため職業斡旋業者に支払わねばならない多額の借金。著者の調べでは、3年目にようやく黒字が出る計算になるという。


ある程度は予想できるこうした事実から、彼女たちを「可哀想な東南アジア女性」と捉えるのは一面的である。経済動機だけで移民を説明することはできないからだ。メイドの女性たちはそれぞれの国の一番貧しい地域ではなく、主に都市部からやって来る。先進国台湾で働くことは解放を意味するのだ。経済力を手にした彼女たちは、携帯電話を買い、休日にはマクドナルドへ行ったり、公園に集まってピクニックを楽しむ。


こうした自由は保守的な風土の祖国では味わえない。あるメイドは台湾で働く理由について「少しの間、離婚するためよ!」とすら言う。別の人は親に強いられた結婚相手がどうしても好きになれず、1年で台湾に働きに来た。帰国後はスムーズに離婚したいと考えている。例え日々の仕事はきつく、社会的地位は低くとも、ここに見られるのは自らの意思で少しでも望ましいライフスタイルに近づこうとするたくましい姿だ。


ここまで本音を引き出せたのは著者の誠実な姿勢ゆえだろう。地元NGOを通じて移民労働者達にインタビューをする前に、ボランティアで4カ月、中国語の講師をしている。インタビュー対象を単に情報を得る手段ではなく、人として敬意を払っていることが分かり私はかなり感動した。米国留学中に社会学者が書いたインタビュー研究に基づく本をかなり読んだが、こんな風に相手の立場に立ったコミュニケーションをしていた人を他に知らない。社会学の調査対象者は多くが弱い立場にある。中には彼らを人間というより数値としてしか見ていない研究もあって、反発を覚えたものである。


著者のPei-Cha Lan助教授(台湾国立大学)とは、今年2月にフロリダの会議でご一緒した。会議ではしばしばアメリカ人フェミニストがアジアに対する偏見やジェンダーに関する独善的なものの見方を発表していた。そんな折に彼女が流暢な英語で論理的かつ的を射た質問をするのを見て、格好いいなあと思ったものだ。ノースウエスタン大学で社会学Ph.D.を取得後、祖国で一番の大学で研究者となっている。アジア人としてお手本にしたい女性研究者である。