先日、美容院へ行った時、渡されたフィガロを隅から隅までなめるように読んだ。


非ビジュアル系の雑誌づくりを生業としているため、写真重視の雑誌は仕事半分余暇半分で興味深いのだが、ふだんは時間がないのでほとんど手に取ることがない。


スリランカへの旅や、世界各都市の話題やら、都内で開かれている展覧会の情報や面白そうな翻訳小説の書評を読み、ここに書かれている場所に片端から行ってみたり、見てみたり、食べてみたり読んでみることができる時間があった独身時代を思い出した。今では、雑誌を通じてそれらを疑似体験することが贅沢な時間の使い方になった…。


しみじみ考えていると、私が退屈したのかと気遣う美容師さんがすかさず「雑誌、換えましょうか」とVERYを渡してくれた。巻頭の井川遙さん連載で、彼女の朝食が甘いモノ(きんつばバームクーヘン)とコーヒー、それに娘さんの食べ残したヨーグルトなどで構成されていることを知る。それらを、朝食やお弁当の準備をしつつキッチンで立って食べるのだという。こんな綺麗な人も普通の主婦的な生活を送っているんだ…といささか図々しい親近感を覚え、一気に現実に引き戻された。


子どもを持ってから、それまで仮想敵と思っていたVERYに出てくる幸せそうな主婦たちに共感を覚えるようになった。掲載されたような高価な服を日常的に身に付ける経済的余裕があったら、私なら家事サービスを使うなあ…と思いつつ、どんなに美しく非日常な外見の人も、いったん世話する対象をもったら、これまでの自由気ままな生活ではなくなることが、細かい記述から浮かび上がってくる。このようなリアリティーを感じられる雑誌は、意外と少ないように思う。